● 17年04月11日 ひょうきん弁護士

ひょうきん弁護士2 №183 同和保育所事件① 事件の経緯



昭和52年3月のある日、北九州第一法律事務所に2人の婦人が訪ねて来られた。田中樹(いつき)ちゃん(4歳)と真里子ちゃんのお母さんの田中かよ子さんと友人である。

相談の内容は次のとおりである。「田中さんは長男樹ちゃん(昭和48年9月生)を昭和50年4月から昭和52年3月まで紫町市民館保育所に通わせていた。

今年2月に4歳以降の樹ちゃんの継続入所とそして樹ちゃんの妹である長女真里子ちゃん(昭和50年12月生)の新規の入所の甲請を小倉中福祉事務所に出した。ところが、市当局は保育料減免申請書に解同の確認印が押印されていないのを理由に保育所への入所を認めようとしない。裁判をして子供達を保育所へ入れることができるでしょうか」。

3月30日、北九州市は、田中樹ちゃん、真里子ちゃんを貴船保育所へ措置した。紫町市民館保育所の入園式は4月2日である。私はその日、田中さんの自宅へ行った。田中さんの家にはすでに「樹ちゃんを守る会」の人達が十数人集まっていた。

紫町市民館保育所は田中さんの自宅玄関前3メートルの道路を挟んで真向いにある。田中かよ子さんは少し緊張した顔をして樹ちゃんと真里子ちゃんを連れて紫町市民館保育所へ入っていった。

ところが、人事異動によって紫町市民館保育所の所長は転勤しており、保育所は「名簿にない」の一点張りで入所を拒否した。樹ちゃんは、「どうして僕の名前がないの。誰が隠したの」と、泣き出した。この日以来、私は、裁判の打合せや闘争方針の討議などで毎日のように田中さんの家に通う日々が始まった。

4月8日、田中さんは、北九州市が紫町市民館保育所に入所させずに貴船保育所に入所措置を行ったのは違法・不当であるとして小倉中福祉事務所長を相手取り、福岡地裁に貴船保育所入所措置決定処分の取消を求める本訴を行うとともに執行停止を申請した。

この裁判の問題点は執行停止の利益である。貴船保育所への措置の停止をしても、直ちに紫町市民館保育所への入所の権利が生ずるわけではないから、執行停止の利益がないという理屈である。


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