※このコラムは北九州地区労連の機関紙「北九州地区労連ニュース」の労働コラムより掲載しています。
● 15年04月16日 労働法コラム

労働法コラム 第5回 競業避止義務…退職時のトラブルに注意 



黒崎合同法律事務所: 弁護士 東  敦子

141105Aさんは、ある製造業の分野で人気の営業マンでした。でも、最近、会社の経営方針に疑問が出てきて、職場を変わりたいなと思うようになり、退職の申出をしたところ、退職後3年間は競業関係になる会社への就職や役員の就任はしないことを制約する書面にサインすることを求められました。サインしないと退職金も払わないというなど会社は強気の姿勢です。

もちろん、営業マンとしての知識や人脈を生かしたいと思っていたAさんどうすればいいでしょうか。会社との間で、雇用契約を結んでいる以上、在職中は、競業する仕事をしたり、事業を営んだりして、使用者の利益を著しく害するようなことをしてはならない義務を負っていると言えます。しかし、退職後もそのような義務を負い続けるのでしょうか?

憲法に定められている職業選択の自由からすれば、在職中はともかく、原則として、退職後には競業避止義務は負いません。就業規則に在職中や退職後の競業避止義務が記載されていれば、その内容を吟味しなければいけませんが、何もなければ、退職を切り出したときに、いきなり要求された誓約書へのサインは拒否できます。もし、無理やり誓約書にサインさせられても、それが無理やりであり、自由な意思に基づくものではないことを明らかにして、有効な合意ではないと争うこともできます。

仮に就業規則に定められていたり、誓約書にサイその制限は公序良俗に反し無効となる」ことから、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、対象の有無などについて、会社の利益(企業秘密の保護)と、労働者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の惧れ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点に立って検討した判例を参考に本当に就職が制限されるのか、慎重に検討しましょう。

ただ、あまりにも退職時に会社と揉めてしまうと、変な噂を立てられたりしないかなど不安になってしまうものです。もしも、全く違う分野の営業マンになるのなら、誓約書にサインしても支障はないでしょうし、退職後3年間ではなくて、2年ならいい、地域を限定して欲しいなど、誓約書で制限される範囲を狭くする方向で交渉するというのも解決策の一つです。

ここからは、あくまでも私の個人的な見解ですが、会社としても、どうやったら競業避止義務をきっちりと決められるかを必死で検討するのではなくて、有能な営業マンがいつまでも働き続けたいと思うような会社作りの方向に努力した方がいいのではないかなと思いますし、営業マンの方も古い職場を出たならば、地域も環境も全く変えて、さらに自分の力を試していくという方が、さらに能力を高めていくことにもなるのかな・・・などとついつい理想的なことを考えてしまいます。

人の生き方にも直結するような悩ましい問題ですが、この問題も会社のわがままや横暴は許せません。ご相談いただければ、判例の基準や動向を調べて、よい解決法を一緒に探していきたいと思います。


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