● 18年07月01日 ひょうきん弁護士

ひょうきん弁護士3 №12 北九州第一法律事務所からの独立 その2



弁護士達はしぶしぶ依頼者の個別訪問を始めた。

行くと依頼者は「何事ですか」とびっくりしたが 「選挙です」と説明をすると全員歓迎してくれた。

自分は三浦久に投票するし、友人知人にも頼んでみると約束してくれた。

良宅に行ったことが尋問に役に立つこともある。私は吉田さんの自宅に選挙の戸別訪問で行っていった。

「あなたは本当に吉田さんに、吉田さんの自宅の応接室で100万円の現金を渡したのですか」

「まちがいありません」

「吉田さんは100万円の現金を貰ったことはないと言っていますよ」

「それは、ウソです。私はちゃんと現金で渡しています」

「自宅の応接室ということまでよく覚えていますね」

「大事なことだからはっきり覚えています。」

「それじゃお尋ねしますが、吉田さんの自宅の応接室は玄関を入って右にありますか左ですか」

思いがけない質問に証人は動揺したが、確率は5割なので思い切って、「右です」と答えた。

私はさらに追求して「本当に右ですか?」

証人はまた動揺したが私の質問は泥舟ではないかと疑って「右です」とこたえた。

私はニッコリ笑って「残念でした、吉田さんの自宅の応接室は玄関に入って正面にあります。真ん中です。あなたは嘘を言っている。あなたは応接室に入ったことはないんでしょう」

「…………」証人黙して語らず。

宣伝カーをつくる。

池永氏はどこからか車を借りて来て、それを宣伝カーにした。弁士は弁護士、アナウンス嬢は事務員、運転手は解雇されたタクシー運転手と労働組合の現役のタクシー運転手だった。タクシー運転手は地理に詳しく、どこで演説をしたらいいのかを知っていた。人がいるところ、アパートやマンションの近くなどに宣伝カーを止めて、弁護士達が演説を始めるのです。

しかし私達、無名の弁護士のヘタな演説など聴く聴衆はいない。アパートのコンクリートの壁に向かって演説をするのです、どれだけの効果があるのかわからない。

ある時。30代と40代と思われる男性が熱心に私の演説を聴いでくれた。聴衆がいると私も乗る気になって熱心に演説をした。私の演説が終わると二人が私のところに来て、警察手帳をかざして言った。

「安部先生。選挙違反です」

「えっ、どこが選挙違反なのですか」

「先生、とぼけたってダメです。選挙運動期間中に選挙運動が出来るのは候補者カーと政策宣伝が出来る政党カーに限られています。今先生は三浦久の応援演説をしてたでしょう。先生は23回三浦久と言いました」

「申し訳ありません、もうしません」

「今回は警告だけにしておきますので、もう二度としないで下さい」

「わかりました」

汗だくになっていいわけをして、その場を離れた。

15分程車を無言のまま走らせて、警察をまいたと思ったので、また演説を始めると警察が追って来た。

あわてて車に来ると「今日は日が悪いので選挙運動は中止します」と宣言し、そのまま事務所に逃げ帰った。

つづく


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