● 15年04月16日 労働法コラム
労働法コラム 第9回 高年齢者の雇用を守るために ~改正高年法について~
黒崎合同法律事務所: 弁護士 溝口 史子
高年法での取り扱い
高年法は、事業者が60才を下回る定年を定めることを禁止しています(同法8条)。そして、65才未満の定年制を採用している事業者に対し、65才までの安定した雇用を確保するため、①定年の引き上げ、②継続雇用制度(高年齢者が希望する場合定年後引き続いて雇用できる制度)の導入、③定年制廃止のいずれかの雇用確保措置を講じなければならないと定めています(同法9条1項)。もっとも、従来の高年法9条2項は、②継続雇用制度について、労使協定により、事業者が継続雇用の「対象となる高年齢者に係る基準」(いわゆる「継続雇用基準」)を定めることができると規定していました。つまり、継続雇用基準を定めた事業者は、基準に合わない高年齢者の継続雇用を拒むことができましたし、この継続雇用基準が客観的でない場合、事業者と継続雇用を拒絶された高年齢者との間で紛争が起きることもありました。
改正高年法の内容
平成24年改正高年法では、このように問題の多い9条2項が削除されました。事業者は、同法9条1項が定めるとおり、定年を迎えた高年齢者が希望する限り、65才まで継続雇用する制度を設けなければならないこととなりました(もっとも、年金支給開始年齢の段階的引き上げに伴い、平成37年まで、既定の継続雇用基準が高年齢者の一部に段階的に残存する経過措置が設けられています)。
その一方で、改正高年法は、新しく9条3項を設け、「厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)を定めるものとする。」とし、高年齢者の継続雇用の例外につき、厚生労働大臣が一定の指針を定めることとしました。そして、同条項を受けて定められた「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」(平成24年厚生労働省告示第560号)は、継続雇用の例外事由として、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等、就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合(年齢に関するものを除く)を挙げています。
高年齢者を継続雇用しない場合、客観的に合理的な理由が必要
継続雇用制度が希望者全員が継続雇用される制度であることに鑑みると、この指針を解釈するにあたっては、高年齢者に就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する事由があれば即継続雇用を拒絶できるのではなく、継続雇用をするか否かを判断する時点で、その高年齢者を継続雇用しないことについて客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合でない限り、継続雇用を拒絶できないと解釈するべきでしょう。
また、事業者が定年後の労働契約を短期の有期契約とした上で、雇止めを行う事態も想定されます。この点、前述した指針は、「継続雇用制度を導入する場合において、契約期間を定めるときには、高年齢者雇用確保措置が65才までの雇用の確保を義務付ける制度であることに鑑み、65才前に契約期間が終了する契約とする場合は、65才まで契約更新ができる旨を周知すること。また、むやみに短い契約期間とすることがないように努めること。」と注意喚起をしています。この指針も指摘するとおり、高年齢者が65才までは継続雇用制度の適用対象であること、そのため高年齢者の継続雇用への期待は当然であることからすると、当該高年齢者について前述した継続雇用しないことが認められるような事由がない限り、雇止めには合理的理由がないと考えるべきでしょう。
(3)今回の改正高年法は、平成37年までの経過措置を認める等不十分な点もありますが、希望者全員に65才までの継続雇用を保障としたことは評価できます。高年法9条1項の趣旨を生かし、65才までの雇用を勝ち取っていきましょう。