● 15年04月16日 労働法コラム
労働法コラム 第7回 労働者性とは
黒崎合同法律事務所: 弁護士 平山 博久
労働者という言葉を聞いて、それは当然わかるよ、働いて賃金をもらっている人でしょ?という方が多いと思います。ただ、労働者という言葉には大きく分けて、労働基準法上の労働者と労働組合法上の労働者があり、その二者はその範囲を異にすることはご存じでしたか。
私は日本労働弁護団・九州労働弁護団に所属しており、現在の労働法制・労働事件について報告を聞いたり、事件報告を聞いたりすることがあるのですが、その中で労働組合の役割が特に大きいと感じているため、一度整理したいと思います。他には労働契約法上の労働者もありますが、すべてを書くと長くなるため、ここでは労働組合法上の労働者を中心にお話しします。
労働基準法上の「労働者」
労働基準法は事業主に対して規制をすることによって労働者を保護する法律で、そこでいう労働者は、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」とされています(労働基準法9条)。皆さんが通常考える労働者はこちらの方だと思います。
この「労働者」に該当すれば、労働基準法による保護も受けられる上、労働安全衛生法、労災保険法等の適用対象となり、労働契約法の適用も受けることになります。
労働組合法上の「労働者」
では、先に述べた労働基準法上の「労働者」に該当しなければ、労働者ではなく、労働組合に加入して団体交渉などはできないのでしょうか。結論から先に申し上げると、「違います」となります。この点、労働組合法上の「労働者」は、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」、労働組合法3条で規定されています。ですから、先の労働基準法の「労働者」とは規定の仕方が異なり、文言解釈上、労働基準法上の「労働者」より広く解されています。
裁判の判例では
この点、労働組合法上の労働者性が争われた事案で最高裁判決が出ています。財団法人との間で合唱団員として出演する基本契約を締結していたA氏が組合に加入し団体交渉を求めたのに対して、財団法人が、A氏は労働者ではないため、団体交渉には応じないとして団体交渉拒否をしたという事案です。
高等裁判所は、出演基本契約であって出損する法的義務があるわけではない等の理由でA氏が財団法人から指揮命令、支配監督を受ける関係にはないことから、団体交渉に応ずる必要はないという形式的な判断をしたのに対して、最高裁はこれと異なる判断をしました。
すなわち、①A氏が公演実施に不可欠な労働力として財団組織に組み込まれていたこと、②A氏は基本的に個別公演出演の申し込みに応ずべき関係にあったこと、③契約内容は財団法人が一方的に決めていたこと、④合唱内容は財団が選任する指揮者の指揮を受け、稽古への参加も財団の監督を受けていたこと、⑤予定時間を超えた場合、超過稽古手当も支払われており、報酬は歌唱という労務の対価であることなどの具体的事実に基づき、労働組合法上の労働者に該当すると判断した上、財団法人に団体交渉に応ずるよう命じました。
高裁判決が契約の文言といった形式的判断をしたのに対して、最高裁判決は契約の形式にとらわれることなく、実質的に判断したものと評価できます。
「新国立劇場 最高裁判決」でネット検索していただければ、すぐに出てきますし、他にも業務委託契約の場合に労働組合法上の労働者性を認める最高裁判決もあります。
組合に加入を!
以上の通り、労働契約を締結していないとの理由で、労働組合運動をしないのは、間違った考えです。ですから、契約の名称如何を問わず、是非、組合に加入した上、自己の権利を実現する活動をやりましょう。