● 15年04月16日 労働法コラム

労働法コラム 第19回 ~メンタルヘルスと休職・復職~



黒崎合同法律事務所: 平山 博久 弁護士

 

131118-433x3001 近年、労働相談を受ける中で、業務に関連した強い不安やストレスによって、精神障害を発症した等のメンタルヘルス不調により、これまで通りの就労ができなくなったとの相談を受けるケースが増えているように思います。

この点、精神障害を発症した点について法的救済を受けるためには労災申請あるいは使用者に対する安全配慮義務違反を原因とする損害賠償請求等の手続があります。ただ、この問題をこと労働契約の枠内(労務提供とその対価たる賃金)に限定した場合、休職制度がある使用者において、使用者が休職命令を出すことができるか、休職中の労働者の復職が可能であるか否かをどのように判断するか等が問題となります。

 

2 休職命令について

(1) 休職制度とその効果

ア 休職とは、労働者を就労させることが不能又は不適当な事由が生じた場合に、労働関係を存続させつつ労務への従事を免除・禁止する措置を指します。使用者の一方的意思表示による場合と使用者と労働者との合意に基づく場合が考えられますが、いずれにしても労働者側の事情に基づき労務を提供しないことになるため当然には賃金は支給されません(但し、健康保険法99条に基づく傷病手当の制度はあります)。

 イ そして、一般に休職制度においては休職期間満了の時点において傷病が治癒しておらず就労させることが不能又は不適当な場合には労働契約終了となります。その意味で、休職制度は、解雇猶予の目的を持つ制度ということができます。

(2) 実際上の問題

ア このように休職制度は労働者の福利厚生のための解雇猶予制度であるため、本来これを適用すべき事案において、適用することなく解雇した場合、解雇権濫用として違法となると考えられます。

イ また、労働者から見た場合、所定賃金を受け取ることができない上、休職期間満了によって当然終了となる制度であることから、使用者において休職制度の名を借りて労働者に対する嫌がらせをすることも考えられるところです。

ですから、休職命令を発令する前提である休職事由があることは使用者が主張立証責任を負うと考えられています。

そして、休職事由があるか否かを判断する際、当該労働者の担当職務について一定の職務限定特約がある場合には、当該職務を基準に労務を提供できるか否か等が判断されるのに対し、かかる限定特約がない場合には従前業務の労務提供ができないとしても、より簡易な労務や配置転換等をも考慮に入れた上で、それでもなお休職させるのが相当であるか、という検討が加えられることになります。

 

3 復職について

(1) 復職に関して問題となるのは、メンタルヘルス不調を抱えた労働者が、一定期間休職した後に復職しようとした場合、使用者において、未だ治癒していないとして復職を拒否され賃金が支給されない、あるいは、休職期間満了したとして労働契約は終了したと主張されるケースが想定されます。

(2) この点について、労働者の主張としては、休職の原因となった傷病等が治癒しており、本来の労務を提供することが可能となった等を主張していくことによって、働かせないという使用者主張に対して賃金請求、労働契約が終了したとの使用者主張に対して労働契約上の地位の確認を求めることになります。

(3) この点についても、前記「2休職命令について」と同様に職務限定の労働契約であったか否かが結論に影響することになりますし、また、これとは別に労働者の主治医の意見と使用者側の産業医との意見が対立する場面等も想定されます。

 

4 まとめ

このようにメンタルヘルス不調においては、労災や損害賠償の場面の他、賃金未払・解雇という場面でも問題が顕在化しますので、まさに法律問題ということができ、休職事由があるか、復帰の時期をいつにするか等については労働組合又は弁護士による助言を受けながら労働者にとってより有利な解決を目指していくことが望ましいといえます。


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