● 15年07月01日 ひょうきん弁護士
ひょうきん弁護士2 №121 第二章 闘う弁護士 ヤクザその(一)
黒崎のあるビルを、ヤクザが裁判所の競売で落札した。ヤクザはそのビルの中で営業していた寿司屋さんの追い出しにかかった。店に来ては「このビルは俺たちのものだから出ていけ」と怒鳴り散らす。組事務所に主人を呼び出しては「出ていけ」と脅かす。
寿司屋の主人は困り果てて私の法律事務所に相談に来た。登記簿謄本と裁判所の競売記録を調べて見る。寿司屋さんが家主から貸借したのは競売申し立て後なので、ヤクザには寿司屋さんを追い出す法的な権利がある。
だからといって、このヤクザのように実力で追い出すことは「自力執行」といって法は禁止している。
ヤクザはこの寿司屋さんを相手に執行命令の申し立てをし、裁判に勝って強制執行をしなければならない。それは時間がかかるので、実力で追い出そうとしているわけである。
さて、この事件の解決の依頼を受けると、私はすぐヤクザに電話した。
「弁護士の安倍ですが、私が依頼を受けましたので、一度お会いして話したいのですが」
「俺の方は別に用事がないから、あんた俺に会いたいなら組事務所まできない」
組事務所には日本刀やピストルがあったと依頼者より聞いているので、そんな所へは行けない。
「まことにすみませんが私は気が小さいので事務所には行きません。別な所にしていただけないでしょうか」
「組事務所がいやなら、あんたの事務所に行こうか」
私の事務所に来て居座られては困る。
「いや、それには及びません。私の方から出掛けますので、そうですね、小倉ホテルの喫茶室はどうでしょうか。お宅の組事務所からも近いようだし」
小倉ホテルの喫茶室を選んだのは、ここなら人の出入りがあり、まさか公衆の面前でヤクザが私を脅かすことはあるまいと考えたからである。
「よし、それなら明日の午前十時に」と約束をしたけれど、その夜は寝苦しかった。