● 11年08月22日 事件報告
小倉監禁事件の被害女性 給付金裁判で勝訴
弁護士 東 敦子
平成22年7月8日午後1時10分、高野裁判官が「福岡県公安委員会は・・」という主文を読み始めたとき、頭が真っ白になりました。これまでずっとダメだったのに裁判所が小倉監禁事件の被害者の給付金を認めてくれた瞬間でした。
小倉監禁事件と聞いて覚えておられる方も多いかと思います。松永・緒方被告らが密室で男女7人を長期間にわたって次々と殺害し、死体を遺棄したとされる事件です。この恐ろしい事件は監禁されていたA子さん(当時17歳)が平成14年にマンションから逃げ出したことで発覚しました。平成17年9月、福岡地方裁判所小倉支部で死刑判決が出されました。控訴審では緒方被告が無期懲役となり、現在は最高裁に係属中です。
今回、私が担当した事件はこの刑事事件ではなく、A子さんの犯罪被害者給付金申請事件です。A子さんは父親を殺人事件で失った被害者遺族です。そこでA子さんの祖父が一審判決の後、給付金の申請をしました。ところが、申請窓口である福岡県公安委員会は「時効」にかかっているので受け付けられないとしたのです。マスコミはこの対応を強く批判しました。私はこの時点では事件と何の接点もなく「時効って??まあ、形式的にはそうかもしれんけど、なんか方法考えられないのかな」と一人で思っていました。運命のいたずらなのか、その後、私がこの事件を担当することになりました。
平成18年2月、今度は私が正式にA子さんの代理人として改めて給付金の申請をしましたが、平成19年3月、不支給という判断。父親の死亡から7年以上たってるからというのがその理由です。続いて、国家公安委員会に不服申立をしましたが、平成20年6月に棄却されました。
こうなると裁判しかありません。溝口史子弁護士、福岡の吉原洋弁護士、福井慎一郎弁護士、石田光史弁護士が加わって、平成20年12月に提訴しました。裁判では、A子さんは当初、監禁状態だったこと、死体がなく、しかも、松永被告は父親は病死もしくは事故死だといって刑事裁判を争っている状況だったこと、平成17年の一審判決でようやく父親が犯罪によって死亡したことが証明できる状態になったことを主張してきました。
今回、裁判所は、A子さんが被害を知ったのは、平成17年の一審判決書ができた日であるとし、その2年以内であれば申請は有効としました。また、父親の死亡から既に7年は経過しているけれども、申請できない真にやむを得ないといえる特別な事情があったので、一審判決書ができた日から6ヶ月以内の申請であれば有効ということで7年の除斥期間の問題も突破してくれました。
この裁判の中で北海道大学の松久三四彦教授が意見書を書いて下さいましたし、事件当時からA子さんに寄り添い支援してきた人も陳述書を書いて下さいました。マスコミも紙面で応援してくれました。何よりA子さんが裁判を起こすという決意をしたことがみんなを動かして、判決という結晶になりました。この事務所だよりがお手元に届くころ、福岡県が控訴せずにこの素晴らしい判決が確定していることを心から祈っています。
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