● 11年11月23日 事件報告
逆転無罪・北九州爪ケア事件
弁護士 東 敦子
拍手と歓声に包まれて
「1審判決を破棄する。被告人は無罪」陶山裁判長の読み上げの後、法廷では歓声と拍手がわき上がりました。裁判長は拍手がなりやむまで少し待ってから、判決理由を読み始め、時折、弁護人席の前に座っている上田里美さんに語りかけるように目を見て話しをし、上田さんはそれに頷いていました。
事務所には約1000筆もの署名が届き、署名全体としては3万筆を超えました。本当にありがとうございました。
控訴審の判断は、上田さんの行為は「看護目的でなされ、看護行為として必要性があり、手段、方法も相当といえる範囲を逸脱するものとはいえず、正当業務行為として違法性が阻却される」という内容でした。
犯罪は①構成要件に該当し、②違法性があり、③責任があることで成立しますが、今回の爪切りは①傷害罪の構成要件には該当するけれども、②正当業務行為(看護行為)だから違法性がないので無罪となりました。注射も同じで、形式的には傷害だけど、正当な医療行為だから違法性がないとなります。今回の爪切りも、分厚くなり、皮膚から浮き上がった爪を切ったため、普段は爪で覆われている皮膚が表面にみえましたから、①傷害罪の構成要件には該当するわけです。でも②必要で適切な爪切りだから違法性がないのです。
支援者の熱い思い
この事件を通じて、たくさんの人に出会えました。神奈川県の鶴巻温泉病院では「上田さんの爪切りは、私たちもやっている普通の爪切りですよ。がんばってね。」と励まされ、あるケアマネさんからは「これが有罪だったら、私の介護の原風景が汚される。認知症の方々の尊厳が大切だと思うから、爪切りしようと思うんです。上田さんのためじゃなくて、自分のために支援したい。」という熱い思いを寄せられました。
事件を振りかえる
同僚看護師の誤解からはじまったこの事件。マスコミや警察が動かなかったら、ここまでこじれなかったでしょう。無罪判決後、マスコミは自分たちがどうしてセンセーショナルな報道をしたのか検証しました。残っているのは病院の懲戒解雇と市の虐待認定です。当時、病院も北九州市もばたばたと対応に追われて冷静な判断ができなかったのではないでしょうか。
無罪判決によって、虐待看護師がいた病院ではなく、進んだ爪ケアをしていた看護師がいた病院だったことが明らかになりました。北九州市も同じです。もう一度、当時を振り返って「ケアをしていたのにボタンの掛け違いで大変なことになったね。」とわかりあえる日がくることを信じています。
この続きは事務所だよりに掲載しています。