● 16年12月21日 ひょうきん弁護士

ひょうきん弁護士2 №173 第四章 労働仮処分必勝法 その3 事件の顔と裁判官の顔を見つめよう。



次は仮処分の次は三和タクシーの労働組合つぶし事件である。

北九州市での全自交(現在は自交総連)の中核組合の会社が第三者に買収された。この買収した経営者は労働組合を認めない。様々な手を使って組合つぶしを行い、それでも組合がつぶれないと、債権者を使って営業車と無線機の競売を行い、会社にはタクシーがなくなってしまった。そして、「車がないから」という理由で35名の従業員の首を切った。明らかな不当行為である。地位保全の仮処分申請をして、会社がいかにこれまでも不当労働行為を行い、本件解雇が不当労働行為であるかを主張・立証する。争点はこれしかない。

裁判官に面会する。勝たねばならない事件の時には個別に裁判官に会うことが必要である。直接会えばこちらの熱意も相手に伝わるし、裁判所が何を考えているかも分かる。個別に会うことを可能にするためには、日ごろからくだらないことでも裁判官と接触しておくことである。そのためには一緒にヘタなテニスもする。一緒に飲みにも行く。

裁判官曰く、
「仮に、この裁判で地位保全の仮処分決定を出しても、車も無線もないのにどうやって営業するんですか。このあたりで和解して金でももらった方がいいんじゃないですか」

「それは一つの考えですが、裁判所はそんな後のことは考えずに、法に従ってこの仮処分がみとめられるかどうかを考えるべきではないですか。

今、この会社は労使紛争をやっているんです。これは闘争なのです。相手が車や無線を競売したのはあくまで一つの戦術にすぎないんです。これで労働者に動揺を与え、首切りをするためにやったことなんです。この仮処分決定が認められれば、労働者を大きく激励するし、会社の組合つぶしに決定的な打撃を与えるでしょう。

この闘争がどういう風に解決するのかは今のところわかりませんが、この決定が下されれば、相手にはもう組合つぶしの方法がないから、早急に解決するでしょう」

勝利の仮処分決定が下された。この決定を私達はマスコミや支援の労働組合を使って徹底的に宣伝した。私の仕事は、組合員に必ずこの闘争には勝利することを確信させ、敵にこの裁判の敗北がいかに重大であるかを幻覚させることにある。

主戦場は法廷の外にある。私達は「勝った。勝った」と鐘や太鼓で騒ぎ回った。

数ヶ月後、経営者は経営権を労働組合に譲渡し、逃げていった。

この会社は今では労働者全員が経営する会社となり、毎日私は裁判所までの足として利用している。

社長になった労働組合の委員長に言う。

「あなたは、勝ったら私を社長にしてやるといったやないか」

「先生の弁護士としての能力は信頼しておりますが、経営能力は別ですので私が社長になりました。先生は会長ということでどうでしょうか。毎月顧問料は払わせていただきます」


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