● 12年11月30日 ひょうきん弁護士

ひょうきん弁護士2 №30 東京製鐵 過労死事件 4



私はまた辻本弁護士に電話した。

「あのう、天野さんと高橋さんが来てくれることになったけど、会社が2人を中に入れないといったらどうするの。裁判所は頼りにならないし」


「法的には弁護士の補助者ということにするの。しかし、そんな心配はいらないんじゃないかしら。安部先生のしつこさは裁判所も会社もよーく知っているから、先生とけんかをしようなどと考える人はいません。正面からあなたが2人を連れて堂々と入れば誰も文句はいいません」

かくして辻本弁護士を先頭に私と梶原弁護士、天野さん、高橋さんの5人は東京製鋼若松工場に乗り込んだ。

辻本弁護士の予想どおり、私達の入場を阻止する者はいなかった。東京製綱若松工場では、まず会議室で私達五人、裁判所、労基署に対して工場一般の説明と被災者の担当職務の説明を受け、現場に出かけた。

現場で高橋さんが私に代わって労災死亡事故が起こった後に、熱源から労働者を遮断するためにカバーがつけられ、冷房装置がつけられたことを説明した。

会社もそれが事実であるから、その時には同じ説明をした。続いて温度の測定をはじめた。この時、労働衛生にくわしい天野さんが会社の測定方法に文句を言い出した。輻射熱を測るのだから冷房や送風機は止めて測るべきこと、それができないなら、冷房や送風を遮断して測らなければとならないと主張した。すると会社の担当者もそれを知っていたのだろう、遮断をするためのベニヤ板を持って来て測定した。

次の裁判の時、会社は検証の時の指示、説明が間違っており、熱源に対するカバーも冷房装置も事故前からあったのだと言い出した。事故前にカバーも冷房装置も購入していたという証拠まで提出した。

裁判長は怒った。「会社の指示、説明は私が聞いたのだから今さら訂正は認めません」

この現場検証が裁判勝利に結びついた。一人の弁護士の力などしれている。多くの人たちと協力してもらって初めて裁判は勝利できる。


<< >>