● 12年10月20日 ひょうきん弁護士

ひょうきん弁護士2 №26 北九州市長選



北九州市長選挙が始まった。私もニュースカーに乗って松本弁護士の応援演説をする。私のような弁護士の演説の内容は候補者の持ち上げである。政策は候補者本人と国会議員や市会議員がする。私は性格がねじ曲がっているので、人の悪口ならいくらでも言えるが人を誉めることは下手くそである。やりたくはないが立場上やらざるを得ない。

私達の街頭演説は人が聴いてくれそうな場所にニュースカーを停めて勝手に演説する。団地で誰も聴衆がいないところでコンクリートの壁に向かって演説をしていると、何でこんなことをしなければならないのかという、むなしさに襲われる。

各地の公民館などで松本洋一の個人演説会が開かれ、これにも応援弁士として演説をする。この日は雪が降って交通機関がマヒした。私がいつものように十五分間の割り当てで演説を始めようとすると司会者がささやいた。

「安部先生、松本先生が雪のために遅れそうです。松本弁護士が到着するまで先生の話を延ばしていただけませんか」

そんな器用な事は私はできない。私は十五分間の話の用意しかしていないので、十五分間の話しかできない。そこにくると議員さん達はいつでも終われる話をいくらでもできる。そもそも話す内容についての蓄積がちがう。しかたがないので私は十五分間の話をゆっくり二十分間、話していると聴衆が騒ぎ出した。

「あんたの話は聞き飽きた。松本を出せ。俺は松本洋一の話を聞きに来たのだ」

「申し訳ありませんが松本弁護士は雪のために到着が遅れています。もう少し待っていただけないでしょうか」

別の聴衆が言った。「いいから、安部先生、話を続けてください」

しかし、私にはもう話す内容も気力もなかった。「すみません。私の話は終わります」

そこに松本弁護士が登場し、聴衆が沸きたつ話をした。前座の私はへたな方がいいのだ。

市長選の結果は谷市長が二十五万三千四百六十三票、松本洋一が二十二万七千二百七票だった。残念。


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