● 15年09月01日 ひょうきん弁護士
ひょうきん弁護士2 №127 第二章 闘う弁護士 ユニバース(二)
ユニバースという、先物取引業者の事務所に乗り込む。行く目的は、相手の業者がどの程度の規模の会社か、動産の差押えをして損害金の回収をはかることができるかどうかを知るためである。
豊田商事がそうであったように20名ぐらいの女性パートが電話をしている。この誘いの電話をきっぱりと拒否しないと、取引員が自宅に押しかけて来ることになる。
「弁護士の安陪ですが、若松の佐藤さんの分、299万1215円を返していただけませんか」
「ところで先生、戸畑の田中さんの件はどうなさるのですか」
「ああ、あれはこの前、お宅の社員が23万円持ってきたけど、残りの177万円を返してくれ」
「私の会社はちゃんと取引をしていますよ。戸畑の田中さんは相場で損をしたのです。どうして返さなければならないんですか」
「それはあなた達が田中さんをだまして、200万円を取り上げたので200万円を返すのは当然だ」
「先生、それはおかしいですよ。先生は若松の佐藤さんについては、取引を認めてるから299万円払えと言っておられるわけでしょう。それなら戸畑の田中さんについても取引を認めないと筋が通らないでしょう」
「これだから、君たちのような法律のシロウトと話をすると疲れる。民法96条には詐欺による意思表示は取り消すことを得、と書いてある。取り消すか取り消さんかはこっちの勝手。戸畑の田中さんは詐欺により取り消すから無効。若松の佐藤さんは取り消さんから有効というわけだ」
「先生、それはあんまりですよ。法律がどうだろうと私は納得できない」
「ほなら、君は筋が通れば金は払うのかね」
「それは私も男ですから筋が通れば払いますよ」
「よし、分かった。私も男だ。君が筋が違うというのなら戸畑の田中さんの件は手を引く。若松の佐藤さんの299万円だけは払え」
299万円を私がユニバースから受け取った翌日、私の事務所の他の弁護士が戸畑の田中さんの依頼を受けてユニバースと交渉を始めた。
詐欺師を詐欺するのは楽しい。