● 15年11月11日 ひょうきん弁護士
ひょうきん弁護士2 №134 第二章 闘う弁護士 豊田商事(一)
豊田商事に乗り込む。豊田商事はJR博多駅近くのビルの六階から九階までを借りていた。これまで私が乗り込んだ先物取引の詐欺会社で、これだけの規模を持った会社はなかった。乗り込むと中にある備品の品定めをする。見回して、私の依頼者がだまし取られた500万円の回収は可能と判断する。
「田村さんが預けた金は満期を過ぎているから返してくれ」
「はい、返しますが、ここには金は置いていません。本社から送ってくるようになっていますので待って下さい」
「いつまで待てばよいのか」
「二週間ほど待って下さい」
「間違いないかね」
「返しますよ」
二週間経って、また豊田商事に金を取りに行く。
「金を取りに来ました」
「はい、じゃあお確かめ下さい」
と金を返してくれた。一キログラムで名刺の半分くらい、100グラムだと豆板である。保証書もなければビニールに包んだ金をポンと返してくれた。
「これ、本物」
「本物ですよ。先生をだますわけにいかんでしょう。偽物をわたすと先生は詐欺で告訴するでしょう。会社がつぶれたら終わりですからそんなバカなことはしませんよ。業者のところに持って行けば買ってくれますよ」
帰りの新幹線の中、私は金の入った鞄を抱き締めていた。金は小さくともずっしりと重い。お客さんに返す前に、一晩だけ自宅に持ち帰る。
「こんちゃん、金だ、金だ」
「どうしたの」
「豊田商事から取り返してきた」
「これが本物?何か雑な感じね」
「そういえばそうだが、相手は弁護士をだましたりせんよと言いよった」
「あんた詐欺師の話を信じるの」
「まあ、そう言えばそうだが、でもこんちゃん、これ重いよ。ほら、持ってごらん」
「あら本当、重いわね。取り返したお礼にこの金くれないかしら」
「バカ」
翌日、小倉の石福という業者に金を売りに行く。豊田商事から取り返したというとすぐに現金をくれた。きっと豊田商事も業者から買ってきたに違いない。