● 16年01月21日 ひょうきん弁護士
ひょうきん弁護士2 №141 第二章 闘う弁護士 暴力団 その2
12月31日、紅白歌合戦を見ているとこんちゃんが話かけてきた。
「あのヤクザの事件どうなった?」
「あれはちゃんと追い出したよ。あのヤクザ、悪い奴でね。あそこにマルチーズの犬がいただろ。あれ雌犬で近所の雄犬を誘惑するらしい。するとあのヤクザが出て来て、『種犬なのに純血が奪われた、もう種犬の価値がなくなった』と言って金を巻き上げるらしい。本当に価値がなくなるんかね」
「バカね。そんなことがあるわけないでしょ」
「そうやろ、そうやろ」
「それで追い出すときこわくなかった?」
「こわくなかったといえばウソになるけど、僕はこれでもプロだからね。ヤクザが20~30人ぐらいはいたかな。戦闘服を着たもんがズラーと並んどってね。その間を執行官と2人で通るんよ。中に妨害する奴がおったんで、『公務執行妨害で逮捕するぞ』と怒鳴りあげちゃった。
ああ、明け渡しをしよったら、綺麗な女の人が3人ぐらい来てね、『何で追い出すんね』と文句を言いおった。どうしてヤクザにあんな綺麗な女が応援に来るとやろね」
そのうち紅白が終った。そろそろ出かけようかと近所の高見神社に初詣に行く。毎年、除夜の鐘を聞きながらそうしている。神社には大勢の人が来ていた。
「去年も無事に過ごさせてくれてありがとう。今年もこんちゃんが幸福に暮らせますように」
と祈っていると、横でキャインキャインと犬の鳴き声がうるさい。犬を引いている男を見ると何と3日前に追い出したヤクザではないか。気の短いこんちゃんはそのヤクザに
「ちょっと、うるさいやないね。鳴かんようにしてよ」と文句を言っている。あわてて私は
「どうもすみません」
とヤクザに謝ると、こんちゃんの腕をつかんで引っ張った。
「なんであんたが謝るのね」とこんちゃんは私に怒る。
ヤクザは私の顔を見ると、どこかで見たような顔だという目をしている。私はヤクザとこんちゃんの両方に
「すみません、すみません」と謝って逃げた。