● 16年09月11日 ひょうきん弁護士
ひょうきん弁護士2 №163 第二章 ひょうきん弁護士 カラオケ裁判始末記
福岡高等裁判所の廊下を歩いていると読売新聞の記者が私を探してやってきた。
「安部先生、各社が待っていますので、記者会見をお願いします」
「何の件?」
「例のカラオケ裁判ですよ」
「どうなったの」
「先生が負けています」
「負けとるなら記者会見は厭ですよ。恥をさらすようなもんじゃないか。勝った方の著作権協会の弁護士に頼みなよ」
「各社待ってますから、それなら説明だけでもお願いします」
やむなく、記者室に行く。ドアを私か開けると待ちかまえていたテレビカメラがジーと動きだし、フラッシュがたかれる。「しまった」 と思ってももう遅い。
ここで「約束が違う」とか「テレビに映すな」とか言っても全部、テレビに放映されるだけだ。こうなったら覚悟を決めるしかない。
「事件の経過について説明をおねがいします」
「これは小倉北区の。〝キャッツアイ〟というクラブが依頼者ですが、ここでは以前生バンドの演奏をしていました。これが著作権法違反というのでカラオケを始めたんですが、するとカラオケも違反というんです。もちろん、カラオケテープについては著作権料を支払っています。著作権協会は、客が歌う歌が著作権法違反というんです。
もちろん協会が請求しているのは客ではなくクラブに請求しています。しかしクラブは客が歌う歌に著作権料を取られれば客に転嫁するでしょうから、結局客が著作権料を払うことになるのです。私か言いたいのは、客が楽しんで歌う歌まで、著作権料を取る必要があるのかということです」
「法的にはどうなっていますか」
「判決は客の歌が演奏になるというのですが、著作権法22条には『著作者は公衆に直接聞かせることを目的として演奏する権利を専有する』と書かれており、著作権法違反となるためにはあくまで公衆に直接聞かせることを目的とした演奏でなければなりません。
カラオケの客はあくまで本人が楽しんで歌っているだけで、へたな客の歌を誰が聞いているでしょうか。客がおとなしく聞いているのは、自分の順番を待っているだけです。客に聞かせるというのが目的なら、今は有線放送がどこのクラブでも入っているからそれを流せばいい。客の歌を演奏だという判決はあくまでこじつけに過ぎず納得できない」
それ以来、カラオケで歌うときには、私はこの種の演説をしたうえで歌う。すると昔に比べて随分拍手が増えたように思う。裁判には負けても庶民は私の味方だ。