● 16年09月21日 ひょうきん弁護士
ひょうきん弁護士2 №164 第三章 ひょうきん弁護士 反対尋問
効果ある反対尋問として有名なのは、あのアメリカ大統領リンカーンの反対尋問である。リンカーンは弁護士だった。
「それで証人は被告人がロックウッドを射殺するところを現実に見たというわけですね」
「そうです」
「証人と被告人との距離は?」
「10メートルくらいじゃないでしょうか」
「時刻は?」
「夜の10時頃です」
「どうしてそんな時間にはっきりと見ることができたのですか」
「月明りです」
「月明りだけでそんなにはっきり見ることができますか」
「その日はちょうど満月で、はっきり見えました」
リンカーンはやおら上着のポケットから暦を取り出し、これを示しながら
「事件の当日は翌日の午前一時にならないと月は昇らず、夜10時には月明りなどあり得ませんが」
証人黙して語らず。
安部千春の反対尋問
「あなたは本当に吉田さんに、吉田さんの自宅の応接室で100万円の現金を渡したのですか」
「まちがいありません」
「吉田さんは100万円の現金を貰ったことはないと言ってますよ」
「それはウソです。私はちゃんと現金で100万円渡しています」
「自宅の応接室ということまでよく覚えていますね」
「大事なことだからはっきり覚えています」
「それじゃお尋ねしますが、吉田さんの自宅の応接室は玄関を入って右にありますか、左ですか」
思いがけない質問に証人は動揺したが、確率は五割なので思い切って、「右です」と答えた。
私はさらに追及して
「本当に右ですか?」
証人はまた動揺したが私の質問は泥舟ではないかと疑って
「右です」と答えた。
私はニッコリ笑って
「残念でした。吉田さんの自宅の応接室は玄関に入って正面にあります。真ん中です。あなたは嘘を言っている。あなたは応接室に入ったことはないでしょう」
証人黙して語らず。