● 23年12月04日 労働法コラム

労働法コラム 第28回 労働審判の現状



平山 博久 弁護士

1 2006年4月に労働審判制度が導入され、17年が経過しました。それまでは解雇にしても賃金にしても、配転命令にしても、パワハラ等にしても、労働関係の訴訟を起こすとなると、長い心理時間がかかっており、労働者が生活に直結する労働紛争に取り組むことで、物心両面で大きな負担になっていたかと思います。
 そこで、労働審判の現状について確認してみます。

2 まず、労働審判に関する2022年全国統計によれば、①調停成立による終了の割合は69.4%、②労働審判が出ることによる終了の割合16.6、そして労働審判に対する異議申し立て率は、約47%のため、③調停+労働審判異議なしの解決率は、78%となっており、高水準で労働審判制度内での解決が実現しています。
 また、平均審理期間は約90日となっており、審理回数を見ても、第1回期日で調停成立となるケースは37%に及びます。
 このように高い確率で迅速な解決を実現できるという点は、闘おうとする労働者にとって大きなメリットがあります。

3 地方、様々な問題もあります。
① 原則40日以内に第1回期日を入れるとなっているものの、これを超えることもあり、また、②相手方の書面が期日の直前に出されて、申立人側で検討する時間がなく、第1回期日が事実上空転したり、③審判内容は口頭告知であり、理由も定形的な内容であるため、詳しい事実認定の内容や法的判断を検証することが難しいことや、④調停による解決水準の低下等の問題があります。

4 以上の通り、様々な問題があるものの、労働審判制度が使用者側・労働者側に浸透した現状にあり、迅速な解決を図ることができ、労働者の負担も比較的少ない制度ですので、労働者のニーズや事件の種類によって、訴訟、仮処分、労働審判等を使い分けることが望ましいと思います。先日も、会社との交渉は困難であったため解雇無効の労働審判申立を行ったところ、第1回期日前に相手方代理人から、職場復帰と金銭解決案のどちらを希望するかとの打診があり、金銭解決案を協議し、第1回期日では、労働審判委員会が調停案を鵜読み上げて、10分以内で終わるという最短の労働審判事件を経験しました。

 現在、民事訴訟では既にウェブ会議(裁判所に出頭せず、パソコンでの映像・音を通信してやり取りする手続)が実施せれており、以前あった遠隔地要件も廃止されており、柔軟な運用がなされています。
 今後、労働審判のウェブ会議も導入される予定です。
 これから労働審判が果たす役割はますます大きくなっていくものと思われます。


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