● 23年12月18日 労働法コラム

労働法コラム 第29回 秘密保持(守秘)義務



  黒崎合同法律事務所 弁護士田邊匡彦

 

  1.  在職中の秘密保持義務
    「社内でのいじめを相談するために弁護士に人事情報や顧客情報を手渡したとして懲戒解雇されましたが、争えますか?」

    1.  労働者は、在職中、労働契約に付随するし信義則上の義務として、就業規則への記載の有無にかかわらず、秘密保持義務を負う(労働契約法3条4項)とされています。
    2.  秘密保持義務は第三者への企業情報の開示を禁止するものですから、営業計画を立てる目的で営業日誌の写しを自宅に持ち帰った場合、営業日誌は機密にあたるが、第三者へ開示する意図がなかったので、漏洩にはあたらないとした判例があります。
    3.  それでは、第三者である弁護士に相談するために機密を漏らした本件の場合は、どうなるのかですが、「弁護士が弁護士法による守秘義務があることや権利救済の必要があることから、義務違反とはならない」とされています(判例あり)。したがって、懲戒解雇は無効として争うことができます。
  2.  

  3.  退職後の秘密保持義務
    「会社から、退職する際に、退職後も秘密保持義務を守るという誓約書を書くように言われましたが、断ることはできますか?」

    1.  結論からいえば、断ることができます。労働者の秘密保持義務は、労働契約上の信義則上の義務ですから、退職後も当然にこれが承継されるものではありません。会社が退職後も秘密保持義務を課すためには契約上の根拠が必要です。退職するからと言って、同契約締結を強制することは認められません。
    2.  仮に、在職中に個別の特約や就業規則において、退職後の秘密保持義務を具体的に定めた規定があったとしても、広く容認すれば、労働者の職業選択の自由や営業の自由を制限することになってしまうため、対象となる秘密の性質・範囲、価値、労働者の退職前の地位に照らし、当該義務は、合理的な範囲に限定されます。したがって、具体的事例ごとにその有効性が判断されることになります。
    3. なお、不正競争防止法による営業秘密保護の規定も頭に入れておく必要があります。同法の規制は退職後にも及ぶと解されているからです。保護される情報は、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3要件を満たす情報に限られています。該当すれば、使用者から差止め、損害賠償、信用回復措置等を求められることがあり、一定の場合には刑事罰もあります。

以上


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