● 24年02月02日 労働法コラム
労働法コラム 第30回 団体交渉権
はじめに
憲法28条は労働者の団結、団体交渉権、団体行動権を保障しています。
今回は団体交渉権について考えてみます。
団体交渉権は労働者が個人ではなく集団で(団体で)使用者と交渉を行う権利で、労働者が 代表者を通じて使用者と賃金その他の待遇や労使関系のルールについて、ご労働協約の締結その他の取り決めを目的として交渉できる権利です。
個々の労働者が自己の労働条件について使用者と個別に取引するのに代えて、多数の労働者が団結して代表者を選出して、集合的に労働条件(賃金、労働時間など)を交渉する、労働者の背景には、労働力の売り止め (ストライキ)、団結権があります。
このように団体交渉は労働条件に関する労働者の交渉力強化の手段となります。
一方でこのような集団的、団体的合意形成は、使用者にとっても一律に労働条件の合意を形成することができる利益があります。
また団体交渉の場で、労使間の意思疎通が図られたり、個々の労働者の苦情や権利主張を組合が代弁して交渉するという機能もあります。
2. 団体交渉の主体
(1)労働者側
団体交渉の労働者側の主体は、単位組合と、その上部団体(連合団体)が原則的な当事者です。
単位組合の下部組織の支部であってもそれ自体で一個の労働組合としての組織を備えて おれば主体となりえます。しかし、組合としての組織を備えていない分会は主体とはなりえません。
争議団として活動しているが労働組合の組織をもたない労働者の集団についても、組合の組織が整っていなければ団交拒否に対して不当労働行為の救済を受けることは困難ですので すみやかに労働組合組織への加入、立ち上げに努めるべきでしょう。
(2)使用者側
個々の使用者であり個人企業の場合は当該個人、法人企業の場合は当該法人です。使用者団体は、統一的に団体交渉をなし労働協約を締結しうるものとして結成された団体でなければ団体交渉の当事者にはなれません。
3.団体交渉の対象事項
団体交渉の対象事項は、企業として処理しうる事項であればどのような事項でも対象となりえます。
① 労働条件その他待遇面の事項
賃金 (退職金、福利厚生給付も)、労働時間、休息、安全性、補償、訓練、労働還境など
②人事に関する事項
組合員の配転、懲戒、解雇、待遇など
③経営、生産に関する事項
新機械の導入、設備の更新、工場移転、経営者らの人事、営業譲渡など
しかし、労働者の労働条件その他待遇や労使関係の運営に関する事項以外の事項については義務的団交事項とは認められません。
4.団交応諾義務
使用者は労働者の代表者と誠実に交渉する義務があります。合意達成の意思のないことを最初から明確にした交渉態度や交渉権限のない者による見せかけだけの団体交渉、拒否回答や一般論のみで内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度などは誠実に交渉する義務に違反します。
このような不誠実な交渉態度が改善しない場合は団交応諾義務の不履行であり、団交拒否と同一であるので不当労働行為として労働委員会に救済申立ができます。
5、団体交渉権の重要性
賃金を引き上げ、職場の労働環境を改善向上させ、パワハラ、セクハラをやめさせるためには団体交渉で使用者に要求を認めさせる以外に抜本的な方法はありません。
法律では最低賃金の定めはありますが適正賃金の定めはなく、裁判でベースアップを勝ちとることなどできないのです。
団体交渉で労働者の生活の苦しさを訴え、職場改善の要求を提起する中でこそよりよい職場がつくられて行きます。
労働組合に加入し、団体交渉によりベースアップや働きやすい職場環境を実現していきましょう。
弁護士 横光幸雄