● 24年03月26日 労働法コラム

労働法コラム 第32回 医師(勤務医)の働き方改革



弁護士 溝口史子

 

 日本の医療は、これまで医師の長時間労働により支えられてきました。医師のうち勤務医には労働基準法が適用されますが、実態として、常勤勤務医の約4割が年960時間超、約1割が年1860時間超の時間外・休日労働を行っているそうです。一般労働者については、時間外労働は原則月45時間・年間360時間まで、臨時的で特別の事情がある場合にあっても年720時間以内・月45時間超は年6ヶ月まで(月100時間未満)とする上限規制がなされていることからも、勤務医が置かれている環境がいかに過酷であるかがわかります。長時間労働を行う勤務医の中にはいわゆる「ヒヤリハット」を経験した者も多く、長時間労働はパフォーマンスの低下や燃え尽き症候群につながりやすいとの指摘もなされています。
 この勤務実態を改善するため、2024年4月から、医師(勤務医)の働き方改革として、時間外労働の上限規制と健康確保措置の適用が始まります。
新しいルールでは、勤務医の時間外・休日労働の上限規制を原則年960時間までとし、例外として、地域医療や救急医療の確保のために勤務医が副業・兼業として他院に派遣される場合(連携B水準)や自院内で長時間労働が必要とされる場合(B水準)、臨床研修・専攻医の研修や高度の技能の習得のために必要な場合(C水準)に限り、医療機関が都道府県知事の特例水準の指定を受けた上で、年1860時間までの時間外労働が認められることとなりました。
そして、時間外労働がこの規制内にあったとしても、管理者は、勤務医の1ヶ月の時間外・休日労働時間が100時間以上となる前(80時間前後が目安とされています)に、勤務医に面接指導を行って、同人の勤務状況、睡眠状況、疲労の蓄積の状況、その他心身の状況につきチェックし、必要があれば就業上の措置を行わなければならないものとされています。
また、始業から24時間以内に9時間の連続した休息時間(インターバル)を確保すること、休息中に緊急業務が発生した場合には代償休息を付与すること等のルールも定められました。
 このように、勤務医について時間外労働の上限規制等のルールが定められたことは評価できますが、この規制基準は、A水準にあっても脳・心臓疾患の労災認定基準に基づいて定められたものであり、勤務医の労働環境が過酷であることに変わりありません。 厚労省も、まずは今回の規制により常勤勤務医の1割が年1680時間超の時間外労働を行っているという現状を改善し、2035年度末をめどに、B水準・連携B水準を終了することを目指しているようです。
 勤務医の健康を守り、働きやすい環境を作ることが、安全で質の良い医療の持続的な確保につながります。このため、こうしたルール作りに加え、引き続き、医療施設の最適配置の推進や医師偏在の是正等の構造的な取組が必要です。


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