新婚旅行

こんちゃんと僕が知り合ったのは、僕が九大五年生で、こんちゃんが二年生の時でした。
僕はやっと司法試験にパスして、九大の司法試験勉強会で下級生の受験指導をしていましたが、そこに、こんちゃんが入ってきたのです。
僕のゼミには二年生の女子学生が五人も入ってきて僕は張り切りました。
ところが一人減り二人減り、先生が悪いのか学生が悪いのか、とうとう僕のゼミはこんちゃんだけになりました。
何しろ僕は先生、こんちゃんは生徒、僕が右を向けと言えば右、左を向けと言えば左を向く、世の中にこんな素直な女性はいないと僕は思ったのです。
僕たちは結婚しました。
新婚旅行は金沢から黒部アルペンルートに行きました。楽しい旅行が終わりに近づいた時、あれは名古屋城でした。
カメラが故障したのです。
「どれどれ、ちょっと貸してごらん」と、僕はこんちやんからカメラを受け取り、いじっていたところ、蓋がパタンと開いてしまったのです。これで二人がこれまで写してきた写真は全部パー。
「あーあ」と僕が溜め息をついていると
突然、こんちやんが僕の頬をピシャーと打ちました。あまりの出来事に僕はただ呆然としました。
こんちゃんが更に打とうとするので「きみぃ、話せば分かる、話せば分かる。たかが写真の一枚や二枚。」と、僕は必死にこんちゃんに冷静になるよう止めたけれども、こんちゃんは左の頬、右の頬と連続的に打ってきたのです。
僕は必死に「この楽しかるべき新婚旅行で、どうして僕は君から打たれなければならないのか。僕はこれでも小学校から優等生だったから、先生からもたたかれたことはない。親からもたたかれたことはない。どうして新婚旅行で君からたたかれなければならないのだ」と説得しました。
しかしこの時はすでにこんちゃんは、僕の生徒ではありませんでした。僕の妻だったのです。
「腹が立ったらたたくの」と、こんちゃんはたたき続けたのです。