風呂

僕たち家族四人は一緒に風呂に入ります。お湯が少ないと全員湯舟につかります。こう書くと随分広い風呂のように聞こえますが、どこにでもあるごく普通の風呂です。
全員が入ると手と足が入り組んで、変なところに足や手が触れたりします。長女の真理子が「キャー、これ誰の手」と騒いでも「僕じゃない」「私じゃない」と知らぬ顔です。
たとえ僕の手であったとしても、手を動かすことは出来ないのです。
お湯が多いと湯舟からこぼれないように、僕は四つの洗面器にお湯を取っておき、こんちゃんと子供を指揮して順番に入ります。
「はい、こんちゃん」「次は真理子」。一人しか湯舟につかれませんから、冬になると寒くて順番を乱し一緒に入ろうとする人間が出ます。「こら、順番といいよるやないか、ダメ」と僕が怒ります。
それでも無理に入ろうとするので、湯舟につかっていた僕はお湯がこぼれないように中腰になります。
するとこんちゃんはわざと「肩までつかりよ」と僕を押さえつけます。
「あーあ、またお湯がこぼれてしまうよ」と言いつつ立ち上がり、僕は洗面器に取っておいたお湯を継ぎ足すのです。
こんちゃんは風呂でよく三重の過ちを犯します。
第一に水道の水を出し過ぎて風呂水を溢れさせるのです。これで水道代を損します。第二に風呂いっぱいの水をそのまま沸かしてしまうのです。僕がいると必死に汲み出してちょうどいいくらいにして沸かすのですが、こんちゃんはそのまま沸かします。これはガス代のムダです。第三に、この風呂いっぱいの湯を沸かしすぎるのです。このため水でうめなければなりません。湯舟からお湯がどんどん流れ出し、僕は気が狂いそうになるのです。
僕は昭和十九年生まれのケチ、こんちゃんの願いはガバーとこぼれるお湯の風呂に一人でゆっくり入ってみたいということです。