高塚地蔵

こんちゃんが食中毒になったので、僕たち一家は厄払いに高塚地蔵に参ることにしました。
高塚地蔵では願い事をその人の年の数だけ書いて納めると叶うそうです。
こんちゃんは「厄払い」と三十五回書きました。長女の真理子は「クラスで一番になれるように」と十回書きました。長男の肇は「級長になれますように」と七回書きました。
「あなたはなんて書くの」とこんちゃんは僕に聞きます。
「僕は自らの力で運命を切り開くから神頼みはしなくていい」と答えましたが、せっかくなので″あること″を三十八回書きました。
さて読者の皆さん、ここで問題です。正義の弁護士は何と書いたのでしょうか。
バスに揺られて高塚地蔵に行きました。高塚地蔵では「オンカーカーカミサンマイソワカ」と言って参るそうです。
記憶力の悪い僕にはこれだけ覚えるのも大変です。肇が四歳のとき、こんちゃんは肇に「あいうえお」を教えました。
「あ」を覚えたので「い」を教えると、もう「あ」を忘れます。次に「う」を教えると「い」を忘れているのです。
こんちゃんは驚いて「この子はバカだ」とガッカリしました。
そこで僕は自らの体験を話します。
「かわいそうだがこの子は僕に似てしまった。僕は忘れる。まるでザルで水を汲むようなものだ。
しかし、やがてザルには藻がたまり漏れなくなる。忘れる以上に覚えるしかないのだ」
やっと高塚地蔵に着いた。沢山の願い事がお堂の回りに貼ってある。
「勉教ができますように」(気持ちは分かるがこれでは難しい)
「司法試験に通りますように」(こんなところに来る時間があったら勉強せい)
「裁判に勝ちますように」(裁判に勝ちたいなら弁護士を選ばなくちゃ。僕に頼みなさい)
気がつくとこんちゃんが、僕の書いた願い事を張り出した。
「ダメ、それは人の見えない所に張ってくれ」
「いいじゃないの。ほんとのことだから」
「ダメ、そんなもの張ったら客がこなくなる」
こんちゃんが張り出した僕の願い事には「金、金、金・・・」と三十八回書いてあったのです。