職種を限定して採用された労働者の配置転換
弁護士 田邊 匡彦
2025年7月執筆
1XはYとの労働契約に基づき、Yの福祉用具センターにおいて、福祉用具の改造・製作、技術の開発を担当する技術職として勤務していた。Xは同センターの技術職として18年間勤務し、同センターにおいて溶接ができる唯一の技術者であった。
2 Yは、同センターにおける福祉用具改造・製作業務の廃止する方針を決定し、Xに対し、総務課の施設管理担当への配転命令をした。Ⅹはこの配置転換命令は無効であるとして、Yに対し、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償等を求めて提訴した。Ⅹの請求は認められるでしょうか?
3 結論からいえば、このような配置転換命令は無効であるといえます。1審2審は「福祉用具の改造・製作業務の廃止によりXを解雇するという事態を回避するために他業務に配転を命じることにも業務上の必要性があり、甘受すべき程度を超える不利益をXにもたらすとまでは認められないこと等から、本件配転命令をもって権利濫用ということはできない」として、Xの当該請求部分を棄却しましたが、最高裁で逆転勝訴しています(滋賀県社会福祉協議会事件(R06.04.26最二小判)。
3具体的には「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。」「XとYとの間には、Xの職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、Yは、Xに対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない。」とし原審に差し戻されました。
4 最高裁判決によって、本件のような場合は、強制的に配置転換されないことが明確になりましたが、配置転換に応じない場合、どのようなときに解雇や変更解約告知(一定の雇用条件を挙げ、それに応じなければ解雇する旨の告知)が有効になるのか等の問題は残ります。 5なお、令和6年4月以降は、労働基準法規則の改正により、労働条件の明示に関し「勤務内容と勤務場所の変更の範囲」を明示することが必要とされています。