競業避止義務について
弁護士 田邊 匡彦
2026年8月執筆
1. 在職中の競業避止義務
競業避止義務とは、労働者が使用者と競合する企業に就職したり、自ら事業を営まない義務のことです。
在職中の労働者には、労働契約における信義誠実の原則(労働契約法3条4項)に基づく付随義務として一定の範囲で競業菱義務が肯定されていますが、その一方で労働者の職業選択の自由に対する制約となるので、無制限に許されるものではありません。
在職中から競業会社の設立準備や従業員の引き抜き行為を積極的に行ったり、競業会社に秘密情報を漏らして便宜を図るなど、使用者の利益を著しく損ねる行為は、競業避止義務違反として、懲戒処分の対象となったり、退職金の減額・不支給事由とされたり、損害賠償請求されたりすることがあります。
2. 退職後の競業避止義務
退職後は、職業選択の自由が保障されているので、原則として競業避止義務は負いません。競業を禁止するためには、特約等の契約上の明示的根拠が必要です。退職時に競合行為を行わない旨の誓約書等への署名を求められることがありますが、署名すると競業避止義務の根拠とされてしまうことになるので安易に署名すべきではありません。
ただし、競業避止義務による特約がある場合であっても、すべてが有効とされるわけではありません。
まず、労働者の自由意志に基づくものである必要があります。例えば、採用される際や退職に当たって、退職金の支払いの条件とされたためにやむを得ず、退職後に競合しないとの誓約書を提出させられた場合は、その特約が無効とされる可能性があります。
また、特約が必要かつ合理的な範囲を超えるものであれば公序良俗に反して無効となります。無効となるかどうかは、①禁止する目的・必要性、②退職前の労働者の地位・業務、③禁止される業務の範囲、期間、地域、④代替措置の有無等を総合的に考慮して、その制限の有効性を判断することになります。